姪っ子が結婚することになりました。
お相手は、5年間付き合ってきた、
会社の同僚なんだとか。
赤ちゃんの時から知っているだけに、
叔母としては、もう感無量です。
その姪っ子から、こっそり相談を受けたのは、
結婚式まであとひと月、という頃。
結婚式で読む、親への手紙のことでした。
姪は私の姉の子なのですが、
実は姉は、シングルマザーなのです。
離婚したのは、姪が12歳の時です。
義兄は趣味にお金を費やす人で、
姉としては、もう我慢の限界だったようです。
でも離婚後も、姪だけは父親と、
年に数回は会っていたようです。
やはり実の父親ですからね。
「実はお父さんにも、
結婚式に出席してもらうことにしたの」
よく姉が承諾したなあ、と思っていると、
最初はやっぱり、いい顔をしなかったとか。
でも、姪が懇願して折れたようです。
で、問題は、
その結婚式の手紙なのですが。
姪としては、
父親にも感謝の言葉を述べたい、
というのです。
「でも、お母さんが嫌な顔しないかな?
どう思う、おばさん?」
というわけなのです。
まあ、姪より長く生きていて、
人生の酸いも甘いも、
多少は、かみ分けている立場上、
ここはひとつ、
ご意見番に徹することに、
してみました。
要注意!冠婚葬祭には忌み言葉がある!
花嫁の手紙は
披露宴のクライマックス。
聞いている人たちも、
思わずもらい泣きしてしまう、
感動のシーンです。
でもだからこそ、
気を付けなければならないことが、
あるのです。
それは忌み言葉です。
結婚式には、祝辞や司会進行などに、
タブーとされる言葉があります。
別れる、離れる、壊れる、等々。
とにかく別離や崩壊をイメージさせるものは、
すべて禁句です。
なぜなのか。
それは日本人が古くから持つ、
言語感覚にあるのです。
言霊(ことだま)信仰というものを、
ご存知でしょうか?
口から発する言葉に、
霊力が宿る、とされる、
古代の民間信仰です。
「幸せになってね」と言えばその通りに、
逆に「不幸になってしまえ」と言えば、
その通りになってしまう。
昔の人は、
そう考えていたわけです。
呪術的だ、
単なる非科学的な縁起担ぎだ、
と言ってしまえば、それまでですが、
でもその名残は、
現代にも色濃く残っているのです。
たとえば、
受験前の「スベる」は禁句、
なんていうのも、その一例です。
結婚式における忌み言葉も、
この言霊信仰の名残なんですね。
だから、
できるだけおめでたい言葉で、
祝福する。
マイナスイメージを持つ言葉は、
避けるようにする。
そこには、この結婚によって、
幸せな家庭が築けますように、
という願いがこもっているわけです。
披露宴はおもてなしの場!きちんとした配慮を!
さて、花嫁の手紙の話に、
話を戻しましょう。
手紙の中で、離婚した父親へも、
感謝の言葉を述べたい、という、
姪の気持ちは、わからないでもないです。
ただそうなると、
どうしても離婚の件に触れざるを、
得なくなります。
どんなに婉曲表現を使っても、
「一緒に暮らしていない」「離ればなれ」
という忌み言葉を、使わざるを得ません。
花嫁みずから、タブーを犯す、
というのは、やはり、
感心できませんね。
聞いている客も、複雑な気持ちになるでしょう。
少し年齢が行った人なら、
縁起が悪い、と思うかもしれません。
そもそも披露宴は、
結婚を報告するために、
客を招くことが、本来の主旨です。
つまり、新郎新婦はホストで、
ゲストをもてなさなければ、
ならないのです。
それなのに、わざわざ家庭の事情を開陳して、
客を不快な気持ちにさせるのは、
あまりいいこととは言えません。
ここはやはり、
母親にだけ、謝辞を述べるに、
とどめるべきでしょう。
おわりに
以上のようなことを、
できるだけ柔らかい表現で、
姪には伝えてみました。
姪は、すぐには「うん」とは言わず、
考えてみる、と言っていました。
さてどうするのかな?
と思っていたら。
結婚式当日、
姪の手紙は、母親との思い出と、
感謝の言葉で溢れていました。
そして、父親のことには、
触れていませんでした。
ひとことも。
ただ、式の後、
父親宛てに感謝の手紙を、
そっと手渡したそうです。
父親は泣いていたそうです。
そりゃあ嬉しかったでしょうね。
どうにかして、父親にも謝意を伝えたい、
という、姪の思いが伝わってきて、
私もジーンとなってしまいました。
そんな優しい姪に、
歌の文句ではありませんが、
言霊をこめて祝辞を送りたいと思います。
どうぞこの幸せなご縁が、
百年年続きますように。