この春、大学生になる娘が県外に進学するため、引っ越しすることになりました。晴れの門出なのですが、娘と離れて暮らすのはやっぱり寂しいものですね。
娘にしてみれば、新しい生活が楽しみで仕方ない様子です。そろそろ引っ越しの準備も少しづつ進めていかないといけませんね。
「引っ越しと言えば、」と、娘が何気なく発した言葉の後に、「お蕎麦を食べるんだよね。」という発言に、「えー!それは違う!」と思わず突っ込みを入れてしまったのですが、引っ越し蕎麦ってお隣さんに配る物じゃなかったかしら?
引っ越し蕎麦って、食べるのが正解なの?それとも配るのが正解なの?
この機会に、これから一人暮らしをして社会に出ていく娘に引っ越しそばの意味と由来について調べて教えたいと思います。
引っ越し蕎麦の意味とは?
本来の引っ越し蕎麦の意味とは、引っ越した新居の向こう三軒両隣に蕎麦を配って挨拶することを言います。しかし、現代の引っ越し蕎麦と言えば、引っ越しした新居で蕎麦を食べることを指す場合もありますよね。
引っ越し蕎麦の意味は、初めは近所に配る蕎麦のことを指していましたが、時代と共に自分で蕎麦を食べるという意味にも変化していきました。これには、引っ越し蕎麦の由来と時代の流れが関係しています。
まずは、引っ越し蕎麦の由来から詳しく見ていきましょうね。
引っ越し蕎麦の由来
江戸時代中期、江戸では新しく引っ越してきた者が近隣への挨拶を兼ねて蕎麦を配る風習が広まりました。長屋の多い江戸の街では、向こう三軒両隣(5軒)にせいろ二枚ずつ、大家にはせいろ五枚を配っていました。
それ以前の引っ越しの挨拶には、餅や小豆粥を配っていたと言われていますが、より安く手に入った蕎麦を配るようになったのが、引っ越し蕎麦の由来になります。
蕎麦の語呂にかけて、「側」に引っ越してきました、細く長くお世話になります、の意味を込めた配りものとの、江戸の町人の洒落もあるのだとか。
時代の流れと引っ越し蕎麦の意味合い
もちろん江戸時代中期頃の引っ越し蕎麦とは、乾麺ではなく生麺でした。生蕎麦を放っておけば、どんどん悪くなっていきます。配ってすぐに、生蕎麦を茹でて食べてもらえばいいのですが、ご近所さんの都合もありますよね。
そこで、「蕎麦切手」という商品券のようなものを生蕎麦の代わりに配り、都合の良い時に蕎麦屋で蕎麦と交換してもらうように変化していきました。そのうちに、蕎麦と交換して帰るより手っ取り早く、蕎麦屋で注文して蕎麦を食べて帰る人が多くなっていきました。
しかし、昭和の初期頃からは、引っ越しの際に隣人や大家に引っ越し蕎麦を配る風習は廃れていきます。一軒家やマンションという住居形態に変化していくうち、引っ越しの挨拶自体をしなくなったのが理由の一つ、とも言われています。
引っ越し蕎麦は自分で食べる風習に変化
時が経ち、現代では引っ越しした側が近所に蕎麦を配る風習は廃れていった一方、引っ越しした当人が新居で蕎麦を食べるように変化していきました。
昭和時代になり、住居形態が変わり荷物が多くなったことと、引っ越し作業には人の手が必要だったことがあります。
今のように引っ越し作業専門で請け負ってくれる業者が出てきたのは昭和50年代で、それ以前は親戚や友人、会社の同僚や部下などに手伝ってもらうことが多かったんです。
自分の引っ越しのために作業をしてくれた労いに、手伝ってくれた人に蕎麦を作って食べてもらったことが定着していった、と言われています。今では、引っ越し蕎麦の意味を「新居で食べる蕎麦」と認識している人が約半数であることが、マクロミル社のアンケートでわかっています。
時代と共に、引っ越し蕎麦は「他人に配る」から「自分で食べる」という意味に逆転したんですね。
まとめ
朝から慌ただしく荷物の運び出しなどをして、息つく暇もなく1日、引っ越し作業が無事に終わった時は本当にホッとしますよね。あー、引っ越ししたんだな、としみじみ感じるものです。
引っ越し当日は落ち着いて食事を作っている余裕もないですし、さっと茹でて調理することができる蕎麦を食べるのは理にかなっていますよね。
現代では、引っ越し蕎麦を手にご近所への挨拶はあまりしなくなった風習ですが、これからお世話になる方々にご挨拶することは必要なことなのかもしれません。
ただし、蕎麦についてはアレルギーを持っている人もいるので、配る際には注意が必要です。引っ越しの挨拶に何かを手渡す時には、お菓子やタオル洗剤などの日用品が無難ですね。
娘の引っ越しの時にも役に立ちそうです。ぜひ参考にしたいと思います。