東京の自宅から、北海道に今度
単身赴任することになった息子。
これから迎える新生活の
下準備で、母の私とともに、
私の実家である北海道の
祖父母宅で数日過ごす
ことにしました。
ある晩、隣人の私の旧友が、
夕食のおすそわけで立ち寄り、
玄関でしばし私と立ち話。
「どうも、おばんです(今晩は)。
ざんギ(鳥の唐揚げ)だよ。
昨日は、たいした(すごく)
しばれたねぇ(寒かったね)。
したっけ(そしたら)、
どが雪(大雪でしょう)!
ママさんダンプ(スノーダンプ)で、
けっぱって(頑張って)
雪投げよ(雪かきよ)。
はぁー、こわい(つかれた)。
いやいや、したっけね(バイバイ)。」
と言って帰った友人。
そばで聞いていた息子には
ちんぷんかんぷんだった様です。
「単身赴任、俺大丈夫かな?」
と北海道の方言に不安な様子。
「ちょっとずつ、慣れるわよ。
まずは挨拶ね。挨拶は基本だから。」
と励ます私。
そこで、北海道の挨拶に関する
方言について、息子にレクチャー
すべく調べてみました。
「したっけ」の二つの用法
北海道で聞かれる「したっけ」という
方言。おなじ発音でも、意味は二通り
あるようです。
別れの挨拶として
したっけね(バイバイ)。」
「したっけ」を「じゃぁね」という
別れの挨拶として使う用法です。
こちらの用法は、
使われる年代がやや
限定されているようです。
テレビアニメの影響からか、
それを見ていた今の30代
から50代の世代の大人が、
友人間など親しい間柄で
交すことが多いようです。
冒頭の私と旧友との会話も、丁度
私達がその世代であるがゆえの、
「したっけ」用法と言えます。
接続語として
見に行ったの。したっけ(そしたら)
漫画ばっか読んでんの。」
「そうしたら」や「それで」などの
接続語として使う用法です。
二つの用法の取り違えに注意
二つの用法を文脈で
取り違えないよう気を
つけましょう。
A子がC子に言った会話文を
見てみます。
C子も行くでしょ?したっけね。」
C子は、話の続きがあると思って
A子の話を待っていたのに、
A子は駅前へ出発してしまいます。
つまりA子の会話文の「したっけね」を、
A子は「後でね、バイバイ」のつもりで、
D子は「そうしたら、今度はねぇ・・」
と話の続きがあるものとして
意味をとっているのです。
会話の流れから、意味をとっていく
力が求められます。
朝と晩の挨拶「〜でした」
朝の挨拶「おはようございます」、
晩の挨拶「今晩は」。
北海道では、一般的なこれらの
挨拶も独特な言い方になる様です。
- 朝の挨拶:「おはようでした」
- 晩の挨拶:「おばんでした」
「今晩は」の挨拶は、
「おばんです」という
言い方をします。
「~でした」という過去形の
言い方が独特です。
これは丁寧な言い方として、目上の
方に対して敬意をこめた表現になる
ようです。
「おばんでした」だからと言って、
過去の話をこれからするのでは
ありません。
「寒さ」の言い方を挨拶に
人との会話のきっかけとして、
気候や季節に関する用語は
外せません。
「今日は寒いですね。体調大丈夫?
ところで・・・」と言った具合です。
寒さの厳しい北海道。
特に「寒さ」に関する表現について
押さえておきたいものです。
- しばれる(ひどく寒い)
- 超える
- だんき(冬の少し暖かい日)
- 雪投げ(ゆきかき)、こわい(疲れる)
(今朝は とても 寒いねー!)
(-8度を下回ったね。)
普通は、「~超え」や「~を超える」
の場合、「~を上回る」という意味で
使います。
ですから、気温が低ければ、
「マイナス8度を下回る」と
すべきところですが、
北海道の尋常ならざる寒さを
表現するのに、「~を超える」
を使うようです。
(今日は寒さもゆるんで少し
温かいから、楽ですね。)
あんたも手袋はいて、けっぱって。」
(今日の雪かきは、つかれるなぁ。
あんたも手袋して(雪かき)頑張って。)
「雪かき」に関する用語は、挨拶の
枕詞としてよく使われます。
「投げる」は「捨てる」の意味です。
「このゴミ投げといて。」は、
「ゴミを放り投げて」ではなく、
「ゴミを捨てておいて」の意味。
このことから、「雪投げ」が
雪かきの意味でも
使われることがあります。
「こわい」は「疲れた」、
「けっぱる」は「頑張る」
の意味です。
手袋は「はめる」ではなく
「はく」と言うようです。
おわりに
一年後に息子の北海道の暮らしぶりを
見に行きました。
寒さの厳しい北海道、雪に悪戦苦闘
してるかな、と思って行くと、
せっせと玄関前を雪かきしています。
「母さん、久しぶり。けっぱって、
雪投げしといたからね。
あずましくないところ
(落ち着かないところ)だけど、
まずあがって。」と息子。
まぁ!北海道弁のなんとも
ネイティブな使い回し!
息子もおがったなぁ
(成長したなぁ)
と感動してしまいました。